FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

摩天楼の密室/ジョー・バニスター

 ヴィンチェンゾ・ナタリ監督『キューブ』、ジェームズ・ワン監督『ソウ』の大ヒット以来、閉鎖された、そして恐ろしい罠が待つ部屋に、お互いがまったく知らない男女が複数閉じ込められ、やがて何者かによって傷付けられ、殺されていく……というシチュエーションの創作物、特に映画が、世の中にあふれかえったが、その質は玉石混合で、玉でない方が圧倒的に多かった。
 この『摩天楼の密室』は、登場人物達が一応自分の意志で集まっているので、上の条件には多少反するが、石多めの玉石混合のグループの中では、地味ながら輝く玉である。
 脱出不可能である空間に閉じ込められた男女が殺されていく、というお話は本格ミステリの伝統的な設定の一つである「嵐の山荘」の変奏曲だが、正体不明のなにものかに襲われたり、建築中のホテルの最上階に人々が集まった目的が、集団心理カウンセリング(しかも自分探しがテーマ)といううさんくささが、前述のような現代のホラー映画の雰囲気を醸し出している。
 ややネタを割ってしまうが、これはきっちりとしたミステリ小説で、謎と解決もきれいなものである。
 「自分探し」という集団心理カウンセリングを受けるため、ペントハウスに集まった、職業も年齢もばらばらの男女七人。彼らはみずからの意志で来たつもりだったが、しかし、そこにはある人間の意図が絡んでいた。
 やがて彼らは閉じ込められたことに気付く。そして自分達の間にある共通点があることを知り、みずからの意志で足を運んだはずの、このカウンセリングを計画した人間とその目的に悩み、恐れを抱く。やがて殺人事件が発生する。
 とんでもないラストが待っていたらどうしようと思っていたが、そんなことはなかった。
 サスペンス性ばっちりの秀作。

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