FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

神話の国の風に抱かれて/ジョー・ベヴァリー

 武田ランダムハウスジャパンからシリーズ第一作『真珠は涙にぬれて』、第二作『侯爵の憂鬱な結婚』、第三作『クリスマスに天使が降りて』が出版されていた「無頼同盟」シリーズ、第四作目『誘惑の女神に囚われて』からは出版元が幻冬舎ラベンダーブックスへと変わって、これが五作目である。
 自由人の貴族男性が、後見人を務めることのなった、じゃじゃ馬娘の貴族令嬢と恋に落ちるという話は、ヒストリカルロマンスの中ではありふれたものだが、そこは作者がアナ・キャンベルと並ぶ異端児ジョー・ベヴァリーのこと、一筋縄ではいかない作品だ。
 この作品ではヒロインの設定に特色があり、他の作者だったらまずありえないような過去をヒロインは背負っており、そしてそれが現在にまで大きな影を及ぼし、ヒロインと、そしてヒーローの言動を決定づけている。
 十九世紀アイルランド。「無頼同盟」の一員にして、次期キルゴラン伯爵マイルズ・カヴァナは、莫大な遺産の相続人フェリシティの後見人に命じられる。美貌であるうえ、莫大な遺産を相続する身であるがゆえ、フェリシティの周囲には性質の良くない男が集まっていた。その代表格が紳士とは名ばかりのイングランド紳士ルパートだ。
 多くの時間をともに過ごすうち、惹かれあうマイルズとフェリシティ。しかしフェリシティは過去に重大な秘密があり、それがマイルズとの恋路を困難なものにさせていた。
 当時の世相を考えれば、フェリシティの物語は書きようによってはひどく重苦しいか、あるいはお涙頂戴的な物語になりそうなものだが、ヒーロー、ヒロインともにタフな性格ゆえ、陰気さは感じられない。「気が強い」という設定であるものの、実際に物語を読んでみるとうじうじしていることの多いヒストリカルロマンスの小説世界の中で、ヒロインのタフさは良かった。
 ジョー・ベヴァリーの他の小説と同じく、面白かった。