FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

地上最後の刑事/ベン・H・ウィンタース

 小惑星の地球への衝突が半年後に迫り、犯罪と暴動がはびこる中、一見自殺と見える男性の死に疑いを抱き、捜査に打ち込む若き刑事……と設定だけ聞くと、なにやら風変りな印象を持つかもしれないが、本作はいたってまっとうなミステリであり、充実した「犯人当て」が楽しめる一冊である。
 半年後に確実に地球が滅びることが決まっている、そのせいで周囲には自殺他殺を合わせて多すぎるほどの死があふれている(簡単に死ねるよう、中央ヨーロッパでは素人の高齢者が自殺のためのハウツーもののDVDをたくさん販売している)にも関わらず、己の職務にストイックに打ち込む主役の姿には好感がもてる。
 ファーストフードのトイレで死んだ一人の男。保険会社の計理士だった彼は他の人間と同じく、地球の滅亡を悲観、自殺したと思われた。しかし、首を吊ったベルトに違和感を覚えた刑事パレスは、これは単純な自殺ではなく殺人事件だと判断し、捜査を始める。周囲の人間に、そして同僚にさえ呆れられながら。
 地球の、そして人類の滅亡を目前にして、自殺に見せかけた殺人事件を起こす理由はなにか。そしてそれを捜査する理由はなにか。
 仮にこの事件が自殺に見せかけた殺人であることを証明できても、そして犯人を逮捕できたとしても、それ相応の刑罰を受けさせる前に犯人も、そして刑事たる彼も、それほど間を置かずにして死ぬのだ。
 しかしパレスは一人の刑事として事件に打ち込む。打ち込まずにはいられない。その理由は彼の過去にあるのかもしれないし、プロフェッショナルの意地かもしれないし、もしかしたら本人にさえ分からないかもしれない。
 静かな雰囲気と余韻に包まれた秀作。
 三部作のことだが、第二作と最終巻の日本で出版が待たれる。と、ある人物の今後の動向が気になる。