FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

秘密/ケイト・モートン

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 ケイト・モートンの四作目(邦訳としては『リヴァトン館』、『忘れられた花園』に続く三作目)。掛け値なしに面白かった。これまでに邦訳された著者の作品を楽しめなかった人でも、これは読めるという人はいるのではないだろうか。
 少女だったローレルは母親をごく平凡な女性だと考えていた。ローレルが十代半ばのとき、眼前で母がある男を殺すまでは。その男は、連続強盗事件の容疑者だったから、母の行動は正当防衛としてお咎めなしとなった。だがローレルは知っていた。母に刺される直前、男が母の名前を呼んでいたことに。偶然現れた強盗ではない、その男と母親は知り合いだった。だがローレルはこの件についてはずっと口を噤んでいた。
 やがて半世紀が流れ、ローレルはイギリスを代表する大女優となり、母は死の床に瀕していた。ローレルはあのときの事件、そして母が隠し持ってであろう秘密を探ろうとする。
 そして読者の前に、戦時下のロンドンにおける若かりし頃のローレルの母の姿、その恋と友情と犯罪と、それゆえ登場人物が抱えることになった重い秘密が描かれる。
 バーバラ・ヴァイン『アスタの日記』を連想させられる文芸的サスペンス。ローレルの母が抱えることになった秘密が落とす影に長く、娘のローレルが熟年女性になるまで尾を引くのだ。
 ネタバレになるから詳しく書けないが、この物語の締め方が実に心憎い。
 傑作。まだ邦訳されていない゛The Distant Hours゛(これも現在と過去を行ったり来たりする物語なんだろうな……)に期待。
 ルース・レンデル/バーバラ・ヴァインの小説もどこかが出版してくれないものだろうか。