FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

秘密の真珠に/メアリ・バログ

 

 よくできたメロドラマほど面白いものは、めったにない。
 リサ・クレイパス『もう一度あなたを』を読んだときにそう感じたが、この『秘密の真珠に』を読み、改めてそう思った。
 これまで読んだメアリ・バログの作品の中で……いや、これまでに読んだすべてのヒストリカルロマンスの中で、と幅を広げてもいい……もっとも面白いと感じる作品の一つが、ヴィレッジブックスから出版されている“シンプリー・カルテット”の最終巻『ただ魅せられて』がだった。同じ作者で、原書房ライムブックスから出版された『秘密の真珠に』はそれに並ぶ出来栄えだ。(ちなみに英国の保養地バースの女学校で教壇に立つ四人の女性をヒロインとした“シンプリー・カルテット”は四作すべてが秀作もしくは傑作というシリーズだ)
 ナポレオンとの戦争から帰ったとき、リッジウェイ公爵アダム・ケントの顔面と肉体、そして魂には消すことのできない傷が刻まれていた。
 絶世の美女の妻と幼い娘がいながら、彼は孤独な家庭生活を送っていた。おまけに肉親間のことで、彼は隠しておかねばならぬ秘密を抱えていた。
 一方貴族の娘フルールも、大きな秘密を抱え、ある出来事から、そしてある男から逃げるため、親しい友人や愛する男性を含め、それまでのすべての環境を捨てて逃げ出し、行き倒れ寸前となっていた。
 おかしな出会いをした二人は、アダムの屋敷で再会する。アダムがフルールを、娘パメラの家庭教師として雇うよう、手を回していたのだ。
 同じ屋根の下で、次第に惹かれ合う二人だが、アダムの心は陰鬱な秘密に蝕まれており、フルールもまた自分を追い回す影に怯えていた。
 五百ページを超える長さがまったく気にならない、波瀾万丈のロマンス小説。訳者にあるあとがきにあるよう、根強いファンが多いのも納得の一冊。
 傑作。

↑どちらも傑作ヒストリカルロマンス