FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

ロスト・メモリー/アレックス・シュミット監督

ロスト・メモリー [DVD]

ロスト・メモリー [DVD]

 ドイツの映画。なんの予備知識もなく、ただ「回想の殺人」やら「過去の罪は長い尾を引く」やらの設定が好みだったという理由で借りたが、これは大当たりだった。
 どんぴしゃり、当方好みのゴシック映画だった。
 孤島、陰鬱な森、限られた登場人物の中での愛憎劇、現在にまで暗い影を及ぼす過去の殺人と、好きな要素が揃っている。繊細で残酷で美しく、血の惨劇を描いていても、どこか透明感が漂う一作だ。
ミステリで落とすのか、ホラーで落とすのか、なかなか分からず、分かってからも最後の最後まで気の抜けない展開になっている。
 夫の浮気が原因で、夫婦関係に軋みが入っている女性医師ハンナ。ある日、勤務先に担ぎ込まれてきた女性を見、そのクラリッサという名前を知ってハンナは驚く。
 幼いときの親友だった。二人の両親は、ある島で毎年休暇を取っていた時期があり、ハンナとクラリッサはそのとき親しく付き合っていた。
 ハンナと、退院したクラリッサはたちまち意気投合、ハンナの幼い娘を伴い、休暇を楽しむため懐かしの島へと向かう。
 だが島で、やはりハンナの子供のときの遊び友達である、島の少女マリアが神隠しにあったかのように消えたことを告げられる。ちょうどハンナやクラリッサやその家族でが島から離れていったときに起きた出来事だという。
 余所者が嫌いなのか、ハンナやクラリッサを見る島の人々の目は冷たい。別荘のごく近くに住むマリアの母親は、いまだマリアに妄執しているようだ。
 グリム童話の舞台のような深い森の中にある山荘の中で時を過ごすうち、ハンナの内側で、マリアに関するおぞましい記憶が蘇ってくる。同時、別荘の中に自分の娘以外の少女の影が身辺にちらつくようになるのだ。
 ややネタを割ってしまうが、ラストは、はっきりとは書かれていないにせよ「これからヒロインはうんと嫌な目に遭うんだな、しかし希望は失われていない」というハッピーエンドとアンハッピーエンドを混ぜたようなものだ。
 設定、風景の美しさ、恐怖、そして謎解きとすべてが楽しめた傑作。