FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

ゴーン・ガール/ギリアン・フリン

ゴーン・ガール 上 (小学館文庫)

ゴーン・ガール 上 (小学館文庫)

ゴーン・ガール 下 (小学館文庫)

ゴーン・ガール 下 (小学館文庫)

 ハヤカワ・ミステリ文庫から『KIZU―傷―』が、この『ゴーン・ガール』と同じく小学館文庫から『冥闇』が出版されているギリアン・フリン。『冥闇』がややかったるいサスペンスだったので、この『ゴーン・ガール』の上下巻の長さが不安だったのだが、その心配は杞憂に終わった。
 現在の邦訳がある中では、間違いなく最高の出来栄えである。
 これは、ある一人の女性の失踪の謎が描かれるサスペンス小説であると同時に、一組の夫婦の熾烈な殺し合いの物語である。どういった類の殺し合いなのかは、ネタバレになるので詳しくは書けないが、最後の最後まで気の抜けないバトルだということは保証したい。
 高名な児童文学作家の両親のもとに生まれ、また彼らが執筆した児童文学のヒロインのモデルだった、都会育ちの美女エイミー。彼女は仕事を失った夫ニックとともに、夫の故郷である田舎町に引っ越してきた。やがてエイミーは突如行方をくらませる。家に誰かと争ったような痕跡を残して。やがてエイミーの生死すらはっきりしないまま、警察を含め周囲の人間はニックを妻殺しとして見るのだ。
 エイミー失踪に戸惑う現在のニックと並行して、エイミーの日記が描かれる。
 解説にある、「パトリシア・ハイスミスに比肩する」という言葉に最初は首を傾げたが、読み進めていくうちに理由が分かってくる。「パトリシア・ハイスミスの某代表作と似た展開が一部ある」。
 帯の「イヤミス」という言葉にはとらわれず(まあ、実に人間の持つ嫌な感情が凄くよく書かれてはいるけれど)、サスペンス小説好きには手に取って欲しい。
 傑作。ネレ・ノイハウス『白雪姫には死んでもらう』と並び、2013年でもっとも面白いミステリの一冊であろう。

KIZU―傷― (ハヤカワ・ミステリ文庫)

KIZU―傷― (ハヤカワ・ミステリ文庫)