FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

きみはぼくの帰る場所/テッサ・デア

 これは、「RITA賞&ロマンティックタイムズ賞 ダブル受賞」ということで、読む前の期待がやや大きすぎたかもしれない。つまらないことは決してない、むしろ比較的面白い部類だが、では「この一年間の間で読んだロマンスの中で、もっとも五本の指に入るか」と聞かれたら、首を傾げる。
 またリージェンシーの時代における、患者を良くしたいという熱意はあるが、現代の視点から見れば正しくはない医療によって、心身を傷つけられた女性が癒されていく物語だとあらすじから知って、繊細で暗く、切ない物語だと勝手な先入観を抱いていたら、むしろエッチで明るい物語だった。
 19世紀、英国。スザンナは美しい海辺の村スピンドル・コーヴを、良家の女性たちが静養のために訪れる癒しの地に変え、ささやかなコミュニティを営んでいた。
 スザンナは少女の頃、親戚の屋敷に預けられていたとき、ある不適切な医療を受け、心身に深い傷を受けた身だった。今でも、ドレスの上からでは見えない箇所が傷だらけだ。スザンナは自分以外にも、同じような境遇の女性達がいると知り、彼女達を癒すべく動いた。今では、このコミュニティに関わる男と言えば、スザンナの父親、著名な発明家のサー・フィンチぐらいだ。
 ところが、この女の園に、男達が現れた。歴戦の勇将ブラムとその連れだ。脚を負傷した彼は戦場に戻りたいがゆえ、サー・フィンチを頼ってやってきたのだ。だが、思いがけない展開から、ブラムは村に軍隊を作ることとなり、スザンナと対決することとなる。
 ある登場人物が中途から、悪い方向へと突き進んでいったのには驚かせた。官能的なラブコメが読みたい読者向け。