FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

白雪姫には死んでもらう/ネレ・ノイハウス

 白雪姫には死んでもらう。
 なんとインパクトのあるタイトルなのだろう。
 この題名が冠された書物のジャンルがミステリならば、誰か(……邪悪な王妃か?)が可憐な白雪姫に殺意を抱く物語なのだろうか。そして童話の通りに、白雪姫は助かるのだろうか。
 『深い疵』に続く、刑事オリヴァー&ピアシリーズの邦訳第二作。『深い疵』は、とあるドイツの名門が抱える秘密と、歴史の暗い闇を扱った、アガサ・クリスティーを思わせる(もっとも作者はドイツ人女性)傑作だったが、この『白雪姫には死んでもらう』もまた勝るとも劣らぬ傑作サスペンスだった。
 ほとんどが密接な人間関係だけで成り立っている狭い集落と、そこで発生した殺人事件。内外を問わず、よくある設定ながら、二人の少女の失踪と十一年後の白骨発見、そして「犯人」の帰郷が原因となって織り成される人間ドラマを、細密画めいた丁寧さで描く。そして、オリヴァーの私生活に訪れる危機もまた。
 小さな村で少女二人が失踪した。一人は村の美青年トビアスのかつての恋人であり、もう一人はトビアスが恋人を捨て去ってまで、熱心に求愛していた少女だった。
 トビアスは冤罪を主張しつつも二少女殺害で逮捕され、十年以上をも歳月を刑務所で過ごし、村に戻ってきた。事件が原因でトビアスの家庭は崩壊していた。そして、村人達の間ではトビアス排除の意志が働いていた。トビアスの母親は襲われ、村人達の歪んだ正義感と、怒りと、そして恐怖が、トビアスを追い詰めていく。
 私生活に爆弾を抱えたオリヴァーと、比較的平和な私生活を営むピアが、過去と現在の事件の捜査に挑む。
 傑作。これまでに読んだドイツミステリ(及びドイツ語圏のミステリ)では、もっとも読みやすい。ぜひともシリーズの別の作品も訳してもらいたい。