FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

ハヤ号セイ川をいく/フィリッパ・ピアス

 フィリッパ・ピアスのデビュー作。
 私は彼女の『トムは真夜中の庭で』が大好きだ。『トムは真夜中の庭で』は児童文学であると同時に時間に関わる秀逸なファンタジーだが、この『ハヤ号セイ川をいく』は楽しい冒険小説であると同時に、暗号ミステリでもある。
 カヌーを通じ、友人となった二人の少年デヴットとアダム。アダムの家は没落した名門で、両親は亡くなっている。アダムは息子(アダムの父親)が戦死して以来、精神の均衡がやや危うくなった祖父と、伯母と暮らしているが、生活は苦しくなるばかりだ。このままでは住んでいる屋敷を手放さなくてはならなくなるかもしれない。
 そんなおり、二人の少年は、アダムの家の先祖伝来の宝が隠されていることを知る。エリザベス女王の御世、スペン無敵艦隊が襲撃してきたとき、アダムの先祖がなんらかの宝をどこかに隠したらしい。手掛かりは短い一篇の詩のみ。二人は詩を読み解き、宝の正体とありかを探し出そうとする。
 思ったよりもずっと楽しめた。謎解きのキーとなる詩は数行のとても短い詩なのだが、これだけでよく物語を膨らませた。この詩を巡って二転三転する展開は、子供のみならず、大人のミステリファンをも魅了する。
 気になる点は一つだけ。最後の最後で宝の隠し場所について、ややひねった、考えようによっては滑稽な展開(これまでの考察はなんだったの……)が待っているのだがこ大人はともかく、これは本来の対象たる子供は理解できるんだろうか。
 英国の風景描写も美しい傑作。
 また翻訳ミステリー大賞シンジケートでも紹介されていた『サティン入江のなぞ』(http://d.hatena.ne.jp/honyakumystery/20130412/1365722599)も、仄暗い雰囲気と、繊細な味わいのあるサスペンスの秀作だった。

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