FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

悪鬼(トロール)の檻/モー・ヘイダー

悪鬼(トロール)の檻 (ハルキ文庫)

悪鬼(トロール)の檻 (ハルキ文庫)

 デビュー作『死を啼く鳥』は琴線に触れるものはなかったけれど、シリーズ第二作『悪鬼(トロール)の檻』はずいぶんと面白かった。当方が始めて読んだヘイダーの傑作『喪失』と同じく、「幼い子供の失踪」というテーマが扱われており、作者はこの痛ましいテーマが得意なのかもしれない。
 幼い息子を除き、自宅に監禁された夫婦。夫婦は半死半生の状態で他人に発見されたが、幼い息子は見つからなかった。やがて警察官達が戸外で彼を発見したとき、少年はもう生きてはいなかった。
 かつて幼い少年だった頃、やはり幼い少年だった兄を、性犯罪者と思しき人間にさらわれ、それ以来家庭が崩壊したキャフェリー警部は執念深く事件を追う。
 幼い子供への性犯罪という醜悪極まりない事件を扱いつつも、読者を翻弄する筆者の技は巧みで、意外な犯人、意外な真相へと読者を連れて行く。この技術がさらに磨かれ、のちの傑作『喪失』で結実したのだろう。
 事件そのものもたいそう暗く、キャフェリー警部の私生活も暗い(私生活では、悪い意味で衝撃的な事件が起きる)のだが、ただおぞましいばかりのお話ではない。
 なかなか面白かった。

死を啼く鳥 (ハルキ文庫)

死を啼く鳥 (ハルキ文庫)

喪失〔ハヤカワ・ミステリ1866〕 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

喪失〔ハヤカワ・ミステリ1866〕 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)