FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

喪失/モー・ヘイダー

喪失〔ハヤカワ・ミステリ1866〕 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

喪失〔ハヤカワ・ミステリ1866〕 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

 初めて読んだモー・ヘイダー。警察小説としても、謎解き小説としても、とても楽しめた。『死を啼く鳥』と『悪鬼(トロール)の檻』に続くキャフェリー警部シリーズの邦訳三冊目、原作としては五冊目である。まだ翻訳されていない巻のネタバレめいた箇所がある。
 『死を啼く鳥』と『悪鬼(トロール)の檻』をこれまでスルーした理由は、あらすじから察して内容があまりに暗そうだから、だったが、この『喪失』もまたお世辞にも明るいミステリではない。しかしこの陰々滅々とした雰囲気を補ってなおあまりあるほどのサスペンス性と、意外な犯人と、そして意外な動機に度肝を抜かれる。
 平凡な一家である所有者が目を離した隙に、自動車は盗まれた。問題なのは、その家族の小さな娘が車内にいたことだ。単純な自動車泥棒ではない。同じような自動車窃盗、内部にいた子供の誘拐事件が立て続けに発生している。だが今回に限り、消えた少女はなかなか見つからない。ほんの少年だった頃、兄を小児性愛者と思しき人間に奪われてから、家庭が崩壊したキャフェリー警部は動揺と焦燥を堪えながら、事件に挑む。犯人から被害者家族に送られる数々の挑発が、より警部を苛立たせるのだ。
 「ミッシング・リング」ものの傑作。犯人や被害者家族ばかりではなく、警察官達の精神もまた不安定だ。
 東野圭吾『容疑者Xの献身』を破り、2012年のエドガー賞を受賞した作品。その冠に偽りなし。

死を啼く鳥 (ハルキ文庫)

死を啼く鳥 (ハルキ文庫)

悪鬼(トロール)の檻 (ハルキ文庫)

悪鬼(トロール)の檻 (ハルキ文庫)