FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

逃避の旅の果てに/スーザン・エリザベス・フィリップス

逃避の旅の果てに (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)

逃避の旅の果てに (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)

 『あの丘の向こうに』の主役の親友、逃亡した花嫁であるルーシーをヒロインとした物語。『あの丘の向こうに』とほぼ同じ時間軸の中で起きた物語である。
 ルーシーの養母は史上初のアメリカ女性大統領(今は違う)、そして自分は彼女とその夫となる男性に偶然助けられ、悲惨な家庭環境から逃げ出すことができた。つねに有名人の娘であることを意識してふるまい、順調にキャリアウーマンの道を進み、理想の男性と結婚することになった。
 しかしルーシーはなぜか式の直前になって逃げ出した。そして奇妙な成り行きで、両親が極秘に雇っていたボディガードだった男、通称パンダとともにチャリティ島に渡り、ともに暮らすことになった。最初は正体を隠したまま島で暮らしていたのだが、心を許した人間には自分の素性を明かし、友情を築いていく。むろん、パンダとの恋愛関係も。
 600ページ近い文庫本を読むのが苦とならない。ロマンティックで、ほのぼのしていて、時としてセクシーで、たまに泣ける。ベテランがいかんなく実力を発揮した一冊だ。
 スーザン・エリザベス・フィリップスの名作の特徴として、非常に脇役のキャラクターが立ちまくっている。
 ルーシーとパンダが同居する家に入り込み、居座ることとなった女性テンプル。通常のロマンス小説ならば、この女性はお邪魔虫のはずなのに、非常に人間臭く、そして魅力的に描かれている。恋人と親友が彼女を裏切って作った少年トビーを一人で島で育てている、もう一人のヒロイン、養蜂家のブリーも魅力的。彼女に絡むマイクがいい奴なのかそうでないのか、なかなか見定めることができないため、余計にやきもきとする。最後の最後で分かる、ブリーとある登場人物との意外な関係、それが発覚したときのブリーの態度もいい。
 ルーシーの養母ニーリーは、『ファースト・レディ』のヒロインである。ニーリーとルーシーの出会いも、描かれている。
 傑作。
 時代ものと現代もの、それ以外にも様々な違いを持つ二冊だが、ジュディス・ジェイムズ『折れた翼』とこのスーザン・エリザベス・フィリップス『逃避の旅の果てに』、立て続けに傑作ロマンス小説を読むことができて幸せである。

あの丘の向こうに (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)

あの丘の向こうに (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)

ファースト・レディ (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)

ファースト・レディ (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)