FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

警視の偽装/デボラ・クロンビー

警視の偽装 (講談社文庫)

警視の偽装 (講談社文庫)

 シリーズ十二作目。警視シリーズを読むのはずいぶん久しぶりなので、手に取るのをしばらくためらっていたのだが、無茶苦茶面白かった。おそらくシリーズで一、二を争う出来栄えである。最高傑作として挙げる人も多いだろう。
 ナチスから逃げ出した人々と宝石という取り合わせで想起されるのは、S・J・ローザン『シャンハイ・ムーン』で、あちらも現在と過去の事件、どちらもよくできていたが、この作品も良くできている。ヒロイン、ジェマの私生活でも激変が起きているが、今回のヒロインは間違いなくエリカだ。
 ノティング・ヒル署警部補ジェマ・ジェイムズ。彼女の旧友エリカはドイツの出身のユダヤ人で、ナチスが権力を握った時代に夫とともにイギリスに脱出した。腕のいい宝石デザイナーだった父親ナチスに殺された。その父親の形見が、数十年ぶりにエリカの眼前に現れた。英国の有名なオークションに出品されたのだ。と、時を同じくするようにして、オークションの関係者達が死んでいく。
 並行して、かつてイギリス国内で起きたユダヤ人男性が殺害され、当時のイギリスの警察官がそれを追う様子が描かれる。
 エリカがかつてドイツで巻き込まれたこと、その後ユダヤ人殺し、そして現代のイギリスで起きた連続殺人事件、いずれのエピソードも美しく響き合っている。最後に分かる犯人像に戦慄。
 訳者あとがきにもあるよう、この巻から読んでも大丈夫。傑作。

シャンハイ・ムーン (創元推理文庫)

シャンハイ・ムーン (創元推理文庫)