FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

モラトリアム・シアター/西澤保彦

 


 長すぎて入らなかったが、正式なタイトルは『モラトリアムシアター produced by 腕貫探偵』である。このタイトルに意味は、最後で分かる。
 櫃洗市の名探偵、腕貫探偵と、大富豪探偵が競演するが、正直言って腕貫探偵の出番は……いや、いろいろな意味でこれを言ってはいけない
 当方が驚いたのは、西澤作品には珍しく、百合が全面的に出てこなかったこと(熟女趣味はたっぷりと出てくるが)終わり方も爽やかなものである。
 強烈な女家族に囲まれる青年、住吉ミツオ。彼が勤めることになった学園の関係者が次々と殺されていく。しかもミツオは自分自身の記憶に欠陥を抱えており、みずから認めるよう、ミステリにおける一人称の語り手にも関わらず、なんらかの事件関係者かもしれない「信頼できない語り手」になってしまう。
 傑作とか秀作とかは言えないが、雰囲気も明るく楽しめる。
 読みやすい一冊。
 彼の役割と探偵としての性質上致し方ないが……腕貫探偵には、もっと出てきて貰いたかった。