FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

知らずにいれば/シェヴィー・スティーヴンス

知らずにいれば (ハヤカワ・ミステリ文庫)

知らずにいれば (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 今年の翻訳ミステリのベストスリーを順不動に挙げれば、ネレ・ノイハウス『深い疵』、ユッシ・エーズラ・オールスン『特捜部Q Pからのメッセージ』、そしてこのシェヴィー・スティーヴンス『知らずにいれば』の三冊だ。縛りをサスペンス小説だけにとどめるならば、ここ数年読んだ中でもっとも優れた作品だ。 
 当方の人生で、これからこれ以上に面白いミステリに出会うこともまれなのではないだろうか。心の中では、筆者はすでに殿堂入りしている。
 筆者はカナダの女性作家。『扉は今も閉ざされて』と、『知らずにいれば』が邦訳されている。共通点としては思わず顔をしかめたくなるような強烈な設定、ヒロインへの目も背けたくなるような仕打ち、ラストに明かになる醜悪な真実、しかしヒロインは強く毅然としており、醜悪な真実ともしっかりと向き合うので、設定は「嫌なこと満載のイヤミス」なのだが、読後には不思議な爽やかささえ漂っている。
 夫を亡くし、若きシングルマザーとなったサラは、幼い娘や彼女の仕事ごと受け入れてくれる恋人エヴァンと出会い、もう一度結婚を考える。サラは養子であり、それゆえ両親の実子である妹達とは差別されながら育ってきた。ふとしたことから、自分の実の両親を調べようとしたサラは、とんでもない事実にぶち当たる。
 キャンプ場で両親を、友人を、恋人を殺してから、取り残された女性を陵辱し、殺害する、カナダ史上最悪のシリアルキラー、≪キャンプサイト・キラー≫。いまだ捕まっていないこの鬼畜と、彼の餌食になった女性のうち、たった一人だけ生き残った被害者女性が、サラの実の両親だったかもしれないのだ。
 サラの母親らしき女性は、ともにキャンプに行った両親を殺害されている。
 すでにこの設定だけで、何人か引いた読者の姿が見えるようだ。しかし、読んでいくと不思議と物語の強い力に呑まれていく。
 この事実を知って以来、恐ろしいことに≪キャンプサイト・キラー≫が、サラの周辺をうろつくこととなった。≪キャンプサイト・キラー≫と自分の生活を守りたいサラ、彼を捕らえたい警察との戦いが始まる。
 あまり軽々しく使いたくない言葉だが、あえて使う。
 大傑作。
 これまでの物語の「聞き手」、精神科医ナディーンがヒロインとなる次の作品が実に楽しみ。早く翻訳されろ。

扉は今も閉ざされて (ハヤカワ・ミステリ文庫)

扉は今も閉ざされて (ハヤカワ・ミステリ文庫)

深い疵 (創元推理文庫)

深い疵 (創元推理文庫)

特捜部Q ―Pからのメッセージ― (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

特捜部Q ―Pからのメッセージ― (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

↑どれも秀逸な翻訳ミステリ