FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

フリント船長がまだいい人だったころ/ニック・ダイベック

フリント船長がまだいい人だったころ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

フリント船長がまだいい人だったころ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

 タイトルの『フリント船長がまだいい人だったころ』とは、主人公の少年カルに父親が語った自作の物語のことである。カルの愛読書は『宝島』。父親は『宝島』に登場する海賊、フリント船長がまだ善人だった頃のエピソードを創造し、息子に語ったのだ。
 同時にこのミステリは、「カルがまだいい子供だったころ」、「舞台となる町ロイヤル・アイランドの住人がまだいい人達だったころ」と、彼らの上に訪れる変化を描いた犯罪小説である。
 アメリカ北西部の海辺の町ロイヤルティ・アイランド。ここはアラスカでの漁で成り立っている町だった。住人のほとんどは、漁師とその妻子だ。主人公の少年カルもまた例外ではない。彼もまたいつか父とともに漁に出ることを夢見ていた。
 ある日、漁船団のオーナーが急死し、息子のリチャードが後継者となった。リチャードは、事業を外国人(ちなみに日本人だ)に売り払うと宣言した。それは、町の人々の生活が崩れ去ることを意味していた。
 ところがある日、リチャードが海で消えた。町の人々は思わず喜び、ほっとした。カルもまた。だが、そののちカルはひどくおかしな成り行きに巻き込まれるのだ。
 ややネタを割ってしまうことになるが、「リチャードの失踪=そのとき町の誰かが、事故のように見せかけて彼を殺していました」という類の単純な物語ではない。さらに事態は複雑で、それゆえカルもまた極めて微妙な立場に置かれ、苦しい選択を強いられることになる。
 苦い、苦い、青春小説にして犯罪小説。父親も小説家……『シカゴ育ち』を書いたスチュアート・ダイベック。ごめん、未読だ……だが、決して親の七光でデビューしたわけではないだろう。

宝島 (光文社古典新訳文庫)

宝島 (光文社古典新訳文庫)

↑どちらも未読だ。