FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

特捜部Q Pからのメッセージ/ユッシ・エーズラ・オールスン

特捜部Q ―Pからのメッセージ― (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

特捜部Q ―Pからのメッセージ― (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

 最近この言葉ばかり書いているような気がする。
 読みやすく、面白かった。
 例えば、ネレ・ノイハウス『深い疵』は、これまでに読んだドイツのミステリの中で、もっとも読みやすく面白かった。
 S・J・ボルトン『毒の目覚め』は、先に紹介された彼女の『三つの秘文字』よりも、読みやすく面白かった。
 そしてこの『特捜部Q Pからのメッセージ』はシリーズ第三作目にして、紛れもなく最高傑作である。六百ページ近いのだが、するすると読める。ここ数カ月、優れた翻訳ミステリの新刊によく当るが、この作品もまた本年度の収穫として人々の記憶に残ることだろう。
 「特捜部Q」はコペンハーゲン警察の新部署で、未解決事件を専門に扱う。カール・マーク警部補と、奇人の助手アサドと、アサドよりもっと奇人だと個人的には思う、やはり助手のローセがこのたび挑むのは、海辺に流れ着いたボトルに入った手紙の謎。損傷の多い便箋には、「助けて」との言葉がある。
読者は知っている。プロローグで、幼い少年二人が誘拐され、兄が命がけで、自分の血を使って手紙を書き、瓶に入れて流したことを。
 特捜部Qのメンバー達は、各方面の力を借りながら手紙を少しずつ解読し、過去に起きた誘拐事件を調べていく。並行して、ある犯罪者のそれまでの人生と、成長してからの犯罪の手口が丹念に描かれる。
 狂信的な父親が支配する家庭で育った男は、長じて邪悪で頭の切れる犯罪者となった。ある特定の宗教に深くのめり込み、同時に子沢山でもある家庭を選び、その家庭の子供達を誘拐しては、手際よく多額の身代金をせしめる。
 今回もまた同じのはずだった。だが男が愛してもおり、なめてもいた妻ミアが男の真の顔に気付きつつあり、息子ベンヤミンのために行動を起こした。男に危うく騙されるところだったイサベルと、男に我が子を誘拐された母親ラーケルは組み、攫われた子供達を取り返すべく、男との戦いを始めた。ある出来事を契機として視力を失った男の妹イーヴァは、おそらく男の犯罪を知っている。だがなにも言わず、消極的な形で加担した。
 前述の脇役の女性達はもちろん、他の脇役達もすべて精彩を放っている。
 刑事たち、犯人、被害者を含めた事件関係者のすべてが魅力的、謎ももちろん魅力的な一冊。
 

特捜部Q ―檻の中の女― (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1848)

特捜部Q ―檻の中の女― (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1848)

特捜部Q ―キジ殺し―― (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1853)

特捜部Q ―キジ殺し―― (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1853)