FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

死せる獣/ロゼ&セーアン・ハマ

死せる獣―殺人捜査課シモンスン (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

死せる獣―殺人捜査課シモンスン (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

 正式なタイトルは『死せる獣 殺人捜査課シモンスン』である。ユッシ・エーズラ・オールスン『特捜部Q』シリーズと同じく、デンマーク産の警察小説だ。作者は大学講師と看護師の五十代の兄妹コンビ。これは偶然だが、アイスランドの警察小説、アーナルデュル・インドリダソン『湿地』に続き、性犯罪絡みのミステリばかり読むことになってちょっと鬱だ。
 学校の体育館に惨殺され、吊るされた五人の男。彼らはいずれも、小さな子供に対する性犯罪の常習犯だった。コペンハーゲン警察殺人捜査課のシモンスンと彼のチームは、事件の早期解決のプレッシャーばかりではなく、犯人達を応援し、事件の解決を望まない、ごく普通のデンマークの人々や、その妨害とも戦わねばならなくなった。この作品によると、デンマークの法律は、裁判を受けても刑期があまり長くないなど、子供への性的虐待の犯人達に寛大なのだという。犯人達を追う刑事の一人ですら、小児性愛絡みの映像を見ることになり、ひどく動揺するシーンがある。
 シモンスン率いる殺人捜査課もチームだが、犯人達もチームで、正直に言って後者の方が個性豊かである(殺人捜査課は結構典型的な警察官達だ)。犯人グループは男女にかかわらず、己が子供時代に性的虐待を受けていたり、あるいは小児性犯罪が原因で身近な人間を失ったりした復讐者達だった。
 序盤は衝撃的な幕開けなのだが、中途でややだれる。しかし、それも終盤の展開でまた印象が変わる。犯人グループは、シモンスンのまだ若い娘を事件に巻き込もうとする。ラスト近くでの、犯人グループに対する、デンマーク政府の対応、シモンスンの刑事としての対応、父親としての対応はそれぞれ違い、読み応えがあり、強烈である。
 ラストにインパクトのある一冊。

湿地 (Reykjavik Thriller)

湿地 (Reykjavik Thriller)

特捜部Q ―Pからのメッセージ― (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

特捜部Q ―Pからのメッセージ― (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

↑最新作だが、まだ未読だ。