FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

怪奇探偵小説傑選1 岡本綺堂集 青蛙堂鬼談/日下三蔵編

 まだ五月だが、そろそろ暑くなってきた、ということで、怪談集に手が伸びた。岡本綺堂は当方にとって……多くの人にとってもそうかもしれない……もっとも馴染みのある日本の怪談作家である。
 岡本綺堂の文章は、平成の読者からしても、相当読みやすい。そして平易さの中にも上品さがあり、そのくせ巧みに恐怖を煽る。
 怪異が起きたとしても、「それはこういった呪いが原因だったのです」などと因果ものにせず、なにも解決しないまま不条理な恐怖の中に、平気で読者を置き去りにする。あるいは舞台を現代に変えたとしても立派に通用するような、人間の狂気、あるいはそこに至るまで追い詰められた神経が引き起こす悲劇を描く。
 日下三蔵は「木曽の旅人」「影を踏まれた女」「白髪鬼」を三傑作としているが、当方はここに「一本足の女」も加えてみたい。
 この本、再読なのだが、前記四作の怖さはむろん、井戸の中に映る二人の美しい男に、姉妹が恋する「清水の井」、謎の小僧が三匹の蟹を売り付けたところから惨劇が始める「蟹」、ある忌まわしい形で池が関わる「竜馬の池」など、水に絡んだ怪談が印象に残った。

世界怪談名作集〈下〉 (河出文庫)

世界怪談名作集〈下〉 (河出文庫)

岡本綺堂が翻訳とアンソロジーを務めた怪談集。こちらも読みたい。