双頭のバビロン/皆川博子
- 作者: 皆川博子
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2012/04/21
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 20回
- この商品を含むブログ (15件) を見る
中国における文芸作品の中のヒロイン、木蘭は、たおやかな娘の身でありながら、徴兵された老父に代わり、男装して従軍し、勝利して故郷に戻る。京劇の俳優は男性ばかりだから、この「男装の美少女」の役回りを、東洋人の美しい男性俳優が演じる。
この幾重にも倒錯した、耽美的な世界を思い浮かべ、主人公の一人が陶然とするという場面があるが、このシーンに象徴されるよう、何重にも倒錯したイメージが物語のどこを切り取っても、つきまとう小説である。
『開かせていただき光栄です』で新境地を開拓した皆川博子だが、この『双頭のバビロン』が持つ手触りは、主な舞台になる土地は違うものの、『薔薇密室』や『伯林蝋人形館』といった作風に近い。
このたびの舞台は、上海と聖林(ハリウッド)だ。かたや他国に侵略され、占領され、無理やり西欧化されつつも、元々のアジアの猥雑さを残した都市。かたや映画という華やかな虚飾の世界をしきりに生み出す都市。
この二つの都市を行き来するのは、切断され、引き離されて育ったかつての結合双生児ゲオルグとユリアンだ。名家の跡取りとして育ち、新大陸に渡って映画監督として名をなしたゲオルグと、存在を抹消され、欧州でひどく閉鎖的な環境で高度な教育を受けて育ったユリアン。異形の双生児の運命は、ひどく複雑に絡み合っていく。結合双生児ならぬドッペルゲンガーを見たものは死を免れ得ないと言うが、ゲオルグとユリアンが顔を合わせればどうなるのか。
ほんのちょっとしか登場しないものの、実在の京劇の名俳優、梅蘭芳も実に魅力的に描かれている。
傑作。
開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU― (ハヤカワ・ミステリワールド)
- 作者: 皆川博子,佳嶋
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2011/07/15
- メディア: 単行本
- 購入: 2人 クリック: 38回
- この商品を含むブログ (66件) を見る
- 作者: 皆川博子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2012/04/05
- メディア: 文庫
- クリック: 6回
- この商品を含むブログ (10件) を見る
- 作者: 皆川博子
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2009/08/04
- メディア: 文庫
- クリック: 30回
- この商品を含むブログ (5件) を見る