FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

虚栄の市/サッカリー

虚栄の市〈一〉 (岩波文庫)

虚栄の市〈一〉 (岩波文庫)

虚栄の市〈二〉 (岩波文庫)

虚栄の市〈二〉 (岩波文庫)

 まだ読んだことのない古典作品。岩波文庫から出ている小説を読み、これほど面白かったのは、ウィルキー・コリンズ『白衣の女』を読んで以来のことである(両方とも、翻訳は中島賢二)。
 『白衣の女』も、個性の異なる二人の女性……弱々しく、善良で美しいローラと、行動力あふれる女傑マリアンの異母姉妹……が描かれるが、この『虚栄の市』でも、まったく対照的な学友二人が登場する。すなわち、天使さながらに善良で優しく、弱々しいアミーリアと、貧しい生まれに苦しめられてきたことから、「必ずのし上がってやる」と誓った、才色兼備で性根が邪悪なベッキーレベッカの愛称)である。
 同じ学び舎で学んだ二人だが、そののちの運命は良くも悪くも、大きく異なってくる。そしていっとき離れても、思わぬところでまた出会い、二人の縁は絡み合ってくる。
 ベッキーは、実際に身近にいたら迷惑きわまりない輩であろうが、小説の登場人物としては痛快である。野心と虚栄心の塊のような女性だが、ところどころで他人の役に立つこともしている。しかしラストで、まさかあんな所業に手を染めるとは思わなかった。
 余談だが、北村薫『街の灯』シリーズのヒロインの一人、ベッキーさんは、自分のニックネームについてどう思っているのだろう。なにせ北村薫のシリーズはミステリだし、本家本元のベッキーは、多分「殺人犯」だし。これって、なにか深い意味があるんだろうか。
 大傑作。とても面白かった。

虚栄の市〈三〉 (岩波文庫)

虚栄の市〈三〉 (岩波文庫)

虚栄の市〈四〉 (岩波文庫)

虚栄の市〈四〉 (岩波文庫)