FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

鬼畜の家/深木章子

鬼畜の家 (a rose city fukuyama)

鬼畜の家 (a rose city fukuyama)

 「第三回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」受賞作。この賞の名前は、時折耳にしていたものの、受賞作を実際に手を取るのは初めてだった。著者は、六十歳まで弁護士として活躍したのち、執筆活動を開始し、作家としてデビューしたとのこと。渋い生き方である。
 末尾の島田荘司による選評から読み始め、「どこかで一度は見た時計だ」で締め括られる文章を目に入れたため、事件全体の構図はまあ掴めたが、それでもとても楽しむことができた。家族が家族をひたすら殺し続ける、陰惨極まりない(真相はもっと陰惨)物語を、延々と聞かされ続けるにも関わらず、である。
 元刑事の私立探偵、榊原はある女の関係者に聞き込みを続ける。女の名前は北川郁江。元看護師で金銭目当てに医師の夫を殺し、親戚を殺し、実の娘の一人を殺し、最後には自分と、溺愛していた息子とともに自動車で水に沈むという形で死んだ。周囲には無理心中だと思われている。
 だが、この鬼畜の家でたった一人生き残ったもう一人の娘……己の母親の異常さに衝撃を受け、まっとうな教育も受けずに何年も引きこもっていた娘……は探偵に打ち明ける。自分はこんな疑問を抱いているのだ。母は、人を殺すことはあったとしても、みずから死を選ぶことなど決してないと。
 ちなみに母親と息子の死体は見つかっていないのだ……。
 妙な表現になるが、新人なのに熟練の技を感じさせる一冊。