FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

歓びの毒牙(キバ)/ダリオ・アルジェント監督

歓びの毒牙 デジタル・ニューマスター [DVD]

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 ダリオ・アルジェントの映画監督としてのデビュー作。このとき彼はまだ二十代だが、この『歓びの毒牙』は、後年のアルジェント作品に見られる魅力のほとんどすべてが詰め込まれた、驚異的な映画だ。この映画で感じられる要素……個性的な殺人場面、狙われ、追われ、襲われる者達の恐怖、そして「なにか見たはずなのに思い出させない」という主役の苦悩、膨大な数の鳥の剝製や怪物を象った奇怪なオブジェや、不気味な絵画、そして怖れおののく美しい女性と、犯人が抱えるトラウマ……はさらに発展し、洗練された形で、『サスペリア』や『サスペリアPART2』の傑作群の中に現れている。
 アメリカ人作家サムはスランプを脱出するためローマに赴き、ジュリアという美しい恋人を作り、そこそこ平和に暮らしていた。だがローマではここ数日、女性ばかりが狙われる奇怪な連続殺人事件が続いていた。
 ある夜、画廊の前を通りかかったサムは、美女が、黒い手袋を嵌め、黒いレインコートを着た男と揉み合っているのを見る。やがて美女は刺され、鮮血にまみれた。サムはなんとかして美女を助けたかったが、犯人によって二重の硝子戸の真ん中に閉じ込められ、苦悶する女性を前にして、なにもすることができない。
 どうにか警察が到着し、被害者の女性は生命を取りとめた。だがサムは警察に疑われ、パスポートも取り上げられてしまう。サムは濡れ衣を晴らすため、そして事件になにかひっかかることを覚えていたため、警察に協力しつつ、個人的にも調査を始める。ジュリアに心配をかけながら。
 しかし警察の捜査や、サムの調査にも関わらず、連続殺人事件は止まることはなかった。そしてサムやジュリア、警察関係者にも犯人の魔手が迫る。
 監督のファンが見ると(いや、そうでなくとも?)犯人の正体には早い段階で察しがつくが、ファンならばそれさえも予定調和として楽しめる。
 デビュー作だけに、アルジェントを初めて見るという人にはうってつけ。むろん従来からのファンも楽しめる。
 アルジェント作品の中では、五指に入るお気に入りとなった。