FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

仮面に秘めた涙/ジョー・ベヴァリー

仮面に秘めた涙 (ランダムハウス講談社文庫)

仮面に秘めた涙 (ランダムハウス講談社文庫)

 作者は、『囚われの愛ゆえに』などの著書があるアナ・キャンベルと並び、ヒストリカルロマンス界の異端児である。どちらもストーリーがとても面白いが、主人公がロマンス小説のヒロインとしてありえないほど悲惨な目に遭う。
 ジョー・ベヴァリーの場合、おおもと加害者は身内であり、その書き方はいやにリアルだ。「こんなろくでもない肉親って現代の日本にもいるよな」などと思わせ、ちょっと鬱になる。
 野心家の実父に背いた罰として、陥れられ、虐待され、それまで自分の住んでいた世界から追放された伯爵令嬢チェス。同じく父の手から逃れる必要があった姉や甥とともに追っ手を交わしての脱出行に旅立つが、馬車が必要となったため、男装して強盗を働いた。相手は名門マローレン家の一人、軍人で今は病のために一時帰還していたシン。
 退屈していたシンは、チェスが男装の美少女だと気付いたものの、なにも気付かないふりをしながら、チェス達の危険な旅に付き合うこととなる。やがてチェスはシンに惹かれ、シンはチェスを愛するようになる。
 マローレン家の人々を主人公とした「マローレン・シリーズ」の第一作。ヒロインが舐めた辛酸のひどさもさることながら、追っ手の目をごまかすため、美形の優男であるシンが女装し、一時は男装の美少女と女装の美青年が並ぶ旅となるのが、作者独特のユニークさである。
 とても優れたヒストリカルロマンスで、ラストもハッピーエンドだが、ヒロインが過去にかなりひどい目に遭っているので、その辺りが苦手な人はやめておいた方が無難。
 良かった。

囚われの愛ゆえに (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)

囚われの愛ゆえに (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)