FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

わたしだけの剣士/ジェニファー・ブレイク

わたしだけの剣士 (ヴィレッジブックス)

わたしだけの剣士 (ヴィレッジブックス)

 ヒストリカルロマンスを読んでいると、かつてのニューオーリンズの特権階級の人々は、欧州の貴族より貴族らしい人々だと感じる。
 一八四〇年、ニューオーリンズ。頽廃と倦怠に満ちたこの町で、剣士ケイドは、妹を死に追いやった男を決闘で倒し、生命を奪った。そして真夜中の墓地で、ケイドは彼が殺した男の妻、絶世の美女リゼットが、墓場で倒れているのを見つけた(この冒頭がひどく耽美的)。連れて帰り、介抱したケイドに、リゼットは、意外な依頼をした。自分自身の財産を狙っている、亡夫の父親、悪漢モアザンから守ってほしいと依頼する。戸惑いながらも、承諾するケイド。
 そして惹かれ合うケイドとリゼットだが、二人の間には良家の未亡人と一介の剣士という身分の違い、そしてモアザンの罠という複数の障害が横たわっていた。
 作者ジェニファー・ブレイクは先祖代々ルイジアナに居住し、今までも幾つもアメリカ南部を舞台としたロマンス小説を書いているという(他のも読みたい!)
 剣戟シーンなどもあるが、基本的には始終物憂く、薄暗い雰囲気に包まれた作品。この他の作家の作品は見られない、独特のムードの作り方は、紛れもなくジェニファー・ブレイクの大きな武器の一つだろう。
 ヒストリカルロマンスでは、貴族や良家の令嬢、未亡人であっても、ヒロインは活動的、能動的であることが多いが、リゼットは自立を目指しているものの、基本的には「皆に守られる女性」で、ケイドとの関係も騎士と姫君に近いものがある。
 脇役も魅力的。ケイドはアイルランド農民の子で、イングランドに反逆を試みて故郷を追われ、新天地を目指してニューオーリンズへと流れついた身だ。
 彼の恋と剣、双方のライバルとなるのがイギリス人剣士ブラックフォード。彼はイングランドで貴族に生まれつつも、次男であるがゆえに無一文で、自分自身で人生の道を拓こうとして、ニューオーリンズにやってきたのだが、このケイドが実に男前に書かれている(次の作品のヒーローに抜擢されたりして)。
 『わたしだけの剣士』は、『気高き剣士の誓い』のスピンオフだそうだが、後者はまだ読んでいない。だが、必ず読むぞと誓う。

気高き剣士の誓い (ヴィレッジブックス)

気高き剣士の誓い (ヴィレッジブックス)