FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

蛇、もっとも禍し/ピーター・トレメイン

蛇、もっとも禍し上】 (創元推理文庫)

蛇、もっとも禍し上】 (創元推理文庫)

 日本の本格ミステリに登場する女性でたとえるならば、西之園萌絵か新妻千秋さながらの完璧超人であるヒロイン、フィデルマ。七世紀アイルランドに生きる彼女は、王の妹であり、修道女であり、弁護士でもある女性で、才色兼備、しかも腕っ節も強いという、パーフェクトヒロインである。しかも、作者が彼女を作品内でしきりに褒めまくっている。
 日本で最初に出版された長編『蜘蛛の巣』では、そのあたりが鼻についてならなかったが、解説の田中芳樹が指摘するよう、この長編三作目では、その臭みが幾分和らいでいる。相変わらず、「毅然とした」という部分を行き過ぎて、時折高慢な態度は見られるけれど。
 女子修道院版『薔薇の名前』という趣がある作品。平和なはずの“三つの泉の鮭”女子修道院で、頭部のない若い女性の死体が見つかった。
 事件を解決するため、フィデルマは海路で修道院へと向かう。しかし、海上で彼女達が発見したものは、無人の船だった。しかもその中には、フィデルマが慕うローマ教会派の修道士エイダルフの持ち物があり、フィデルマはひどく動揺する。
 “三つの泉の鮭”女子修道院に到着してからも、修道女は敵意に満ちており、調査はひどく難航した。再び修道院の中に死体が転がり、フィデルマはエイダルフの身を案じつつ、悪意と陰謀渦巻く修道院内で、殺人事件解決へと邁進する。
 動機も含め、ミステリとしての出来栄えもそこそこいい。フィデルマの性格が丸くなっていたせいか、シリーズに対する好感度がアップした。『蜘蛛の巣』とこの『蛇、もっとも禍し』しか読んでないのだが、他の長編や短編集も読んでみることにしよう。

蛇、もっとも禍し下】 (創元推理文庫)

蛇、もっとも禍し下】 (創元推理文庫)