FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

悪童/カミラ・レックバリ

悪童―エリカ&パトリック事件簿 (集英社文庫)

悪童―エリカ&パトリック事件簿 (集英社文庫)

 「エリカ&パトリック事件簿」シリーズ第三作。前作『説教師』ではエリカの活躍はあまりなく、もっぱらパトリック刑事とターヌムスヘーデ警察署の署員達の捜査の描写の重きが置かれていたが、今回ではエリカや刑事達に付け加え、さらに幅を広げフィエルバッカの町の住人達の暗部が広く深く描かれている。
 今回は最後の最後で驚愕した。事件の結末そのものにも驚いたが、もっと怖いものがその後に待っていた。レックバリ、うまい作家である。この衝撃はシリーズを刊行順に読んでいない人でないと、ちょっと分からない。
 そして相変わらず『氷姫』や『説教師』同様、「過去の罪は長い尾を引く」タイプのお話作りがうまい。この作家の場合、その「長い尾」はしばしば家族の間での軋み、特に歪んだ親子関係として現れてくることが多い。
 生後二カ月の娘マヤを抱え、新米母として疲れ切っているエリカ。そこにさらに衝撃的なニュースが飛び込んできた。いまや親友とも言えるママ友シャロットの娘、七歳になるサーラが海で死んだのだ。しかもそれは事故ではなくて殺人事件だった。解剖の結果、彼女の胃から五十年ほども前の灰が見つかったというのだ。
 シャロットと、その医師の夫二クラス、シャロットの母親リリアンと……この家族の内と外の人間関係は多少の問題を抱えていた。シャロットはリリアンと反りが合わなかった。
 二クラスの父、男尊女卑主義者で自身は聖職者になりたかったアーネは、医師になった息子が決して許せず、母アスタはアーネの言いなりだった。リリアンとトラブルを抱えていた隣人ヴィーバリ夫妻の息子、モルガンは発達障害者で、傍ら見れば知能の高い変人だった。
 捜査に加え、同時進行でアグネスという悪女の生涯が記される。一九二三年に十九歳だった彼女の人生は、現代に起きたサーラ殺しとどのような関わりがあるのか。
 秀逸なミステリにして、陰気なホームドラマ。温かい場面もあるにはある。
 前述の通り、サーラ殺しが巧みに解決したとしても、最後の最後で爆弾が待っている。次はこの事件の調査が本のテーマとなるのだろうか。
 文庫本にして七百ページに近い厚さが全く気にならない傑作。これだけでもいいのだが、できれば『氷姫』、『説教師』の次に読むことをお勧めしたい。次の巻がすごく気になる。

氷姫―エリカ&パトリック事件簿 (集英社文庫)

氷姫―エリカ&パトリック事件簿 (集英社文庫)

説教師 エリカ&パトリック事件簿 (集英社文庫)

説教師 エリカ&パトリック事件簿 (集英社文庫)