ふたりの距離の概算/米澤穂信
- 作者: 米澤穂信
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2010/06/26
- メディア: 単行本
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タイトルの「ふたりの距離」とは、おそらく実際的、物理的な距離だけではなく、折木奉太郎と千反田える、折木奉太郎と大日向友子の心理的な距離のことも示しているのだろう。
神山高校星ヶ谷杯。約二〇〇〇〇メートルを走るというイベント。このイベントに参加しながら、奉太郎は所属する古典部について思い悩み、決断する。新入生、古典部に仮入部し、部員とも馴染んでいた友子が、結局入部を取りやめた。ただ気が変わっただけかもしれないし、他に入りたいクラブができただけかもしれない。だが気になる点がある。友子の翻心は、えるが関係しているかもしれないのだ。
友子の心変わりの謎という軸に、小さな謎がいくつも絡む。彼女と初めて出会ったとき新入生勧誘週間のとき、製菓研が発していた違和感の正体、奉太郎とえるが古典部の他のメンバーに隠していた秘密、そして明かにされていない喫茶店の店名当て。
相変わらず安定した出来である。シリーズものならではの楽しさにあふれている。逆に言えば、本書を初めて読む人には、面白さは十全には分からないかもしれない。
最後に明かされる人間関係は、妙に生々しい。こういう苦しい関係は実際にありそうだ。
「日常の謎」を描いたミステリとしてよし、青春小説としてよし。