FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

闇の喇叭/有栖川有栖

闇の喇叭 (ミステリーYA!)

闇の喇叭 (ミステリーYA!)

 暗澹としているのに、清冽という不思議な印象を与える作品である。
 現代の、そして現在の日本と似ているが、そのまま同じではないという点では石持浅海の傑作『この国。』と似ている。ことに『闇の喇叭』の明神は、『この国。』の番匠と人物造形や役回りに共通点がある。
 第二次世界大戦の敗戦の結果、南北に分断された日本。北海道は日本から独立し、ソ連支配下に置かれている。日本では犯罪の真相を追うのが許されるのは警察のみとなり、一切の探偵行為は禁止され、探偵狩りなる苛酷なものさえ行われた。
 だが女子高生、純の父親の誠は腕利きの探偵だった。今は家族と離れ、身を潜めている(はず)の母親は、その助手だった。父親は探偵としての顔を隠して日常生活を送っている。純は父を愛し、尊敬していた。純は、友人の由之や景以子との青春を楽しみながらも、近所で起きた殺人事件の調査に、誠とともに足を踏み入れていく。
 殺人事件と解決そのものもそこそこ面白いが、殺人事件の解決が登場人物達にもたらした影響も同じぐらい読みどころである。現実の、現在の日本ではありえない展開であり、こここそがこの『闇の喇叭』のキモだ。そしてその姿は、「真相を究明することが、万人を幸福にするとは限らない」ミステリ小説上の名探偵達の姿と重なるような気がるする。
 帯にあるよう、有栖川有栖の新境地を堪能できる作品。決して明るいお話ではないのだが、とても凛然とした感じがする。

この国。 (ミステリー・リーグ)

この国。 (ミステリー・リーグ)