FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

ラスト・チャイルド/ジョン・ハート

ラスト・チャイルド (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1836)

ラスト・チャイルド (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1836)


 重厚な描写、健気な十三歳の少年主人公、家族の再生という感動的なテーマ、ミステリとしてよくできた結末といい、「優等生的」という表現を使いたくなるほど、ケチのつけようがない作品。四百五十ページという長さも気にならない。
 心優しく働き者の夫スペンサーと、天使さながらに美しく朗らかな妻キャサリン。そしてキャサリンによく似た愛くるしい双子の兄妹、ジョニーとアリッサ。メリモン家のささやかな幸福は、アリッサがいなくなってから崩れ始めた。目撃者の証言によると、アリッサは白人男性に車で連れ去られたという。やがてスペンサーは家を出て行方をくらまし、母は薬物に溺れ、彼女の美貌に目をつけた実業家ホロウェイの愛人となった。ジョニーは最愛の妹のことを決して諦めようとしなかった。みずから作成した犯罪者のリストを手にしながら、学校をさぼって調査に乗り出していた。アリッサ誘拐の目撃者である親友ジャックの手を時折借りながら。
 一方刑事ハントもまた、アリッサの事件にのめり込む一人だった。結果として妻は出ていき、取り残された息子のアレンはひどく反抗的な態度を取るようになっていった。彼はジョニーの調査を無謀で危険なものとみて、案じていた。
 やがて、ジョニーの知り合いである少女が誘拐される。
 事件の真相そのものは単純なものなのに、知った瞬間意外性を感じさせるのは、やはり作者がうまいせいだ。二〇一〇年に出版された翻訳ミステリを代表するものの一つになるであろう作品。


ラスト・チャイルド(上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ラスト・チャイルド(上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ラスト・チャイルド(下) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ラスト・チャイルド(下) (ハヤカワ・ミステリ文庫)