FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

秘密/P・D・ジェイムズ

秘密〔ハヤカワ・ミステリ1833〕 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

秘密〔ハヤカワ・ミステリ1833〕 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

 作者と作品とは全く別物である。だが、この緩みのない作品を描いた彼女が二〇一〇年で九十歳とはやはり驚き入る。
 医師の所有する荘園、庭には古代のストーンサークルがあり、魔女が処刑されたという陰鬱な伝説がある。その荘園で顔の傷痕を消す手術を受けるはずだった女性ジャーナリストが殺害される。荘園の人間関係は、所有者である医師を中心として緊迫していた。
 なんという正統派。当方が英国女性ミステリ作家に求めるものがすべて詰まっている。ストーカーめいた執心で他人の秘密を求め、嗅ぎ回ることで成功の階段を上がってきたジャーナリストのローダ。呑んだくれの父と弱々しい母親の間で育った薄幸の少女時代と、現代の独立独歩の姿とを対照的に、そして克明に描き出す冒頭に、いかにもP・D・ジェイムズらしさを感じた。
 アダム・ダルグリッシュ警視長やケイト・ミスキン警部にもプライヴェート上の変化が起きているので、シリーズ読者にもお楽しみが詰まっている。