FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

バートラム・ホテルにて/アガサ・クリスティー

バートラム・ホテルにて (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

バートラム・ホテルにて (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

 クリスティーの作品中、もっとも奇妙な物語の一つだろう。「なにが謎なのか」がなかなかはっきりとしない。失踪事件が一つ起き、そして中盤を過ぎてから死体が一つ転がるが、この殺人事件はこのお話の中でさしたる重要性は持ち合わせてないように見える。もっと大きく、そしてファンタジックな謎が背後に控えているからだ。
 バートラム・ホテル。それは大都会ロンドンにて、古き良きエドワード朝の香気を放つ格式あるホテルだ。ミス・マープルもこのホテルに滞在、過去を懐かしみつつ、ロンドン散歩を楽しんだ。ホテル内での人間関係は、華やかな女性冒険家を軸としてやや緊張していた。
 主役は人間よりも、このバートラム・ホテルである。人間観察の達人たるマープルでさえ、このホテルには存在感を食われているようにさえ感じられる。
 現実ではまずありえない(あったら困る)、嫌な後味を残しつつもどこかお伽噺めいた犯罪小説。なにかに巻き込まれないんだったらこのホテル、一度泊ってみたい。