FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

フリッツと満月の夜/松尾由美

フリッツと満月の夜 (TEENS’ ENTERTAINMENT)

フリッツと満月の夜 (TEENS’ ENTERTAINMENT)

 王道と陳腐とは紙一重。「よくある設定」はそれを使うとお話が面白くなるがゆえによく使われ、手垢にまみれきった代物になるのである。それが王道と呼ばれるか、陳腐と呼ばれるかは、作者の腕次第だ。
 都会から田舎にやってきた少年の、奇妙な友情と冒険とを描いた一夏の物語。なんてありふれているんだ。しかし、やっぱり面白いのだ、これが。
 カズヤは、小学五年生の少年。デザイナーの母親を都会に残したまま、小説家の父親とともに港町へと向かうこととなった。その町では幾つかの不思議な出来事が起こっていた。一つは町を方向音痴の泥棒がかき回していること、もう一つは資産家の老婦人が亡くなり、その遺産がとこかに消えたこと。彼は洋食屋「メルシー軒」の少年ミノルとともにこれらの不思議な謎に挑むことになる。やがて彼は、意外ななにかと出会うことになる。
 一部超常現象が見られるが、それ以外は本格ミステリとして楽しめる。児童向けに出版されたのだが、無国籍風で洗練された松尾由美特有の雰囲気が満ちており、十分に大人のミステリ好きにも楽しめる。
 表紙に書かれている動物が好きならば、もっと楽しめるかも。