きのうの世界/恩田陸
- 作者: 恩田陸
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2008/09/04
- メディア: 単行本
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いかにも恩田陸らしい作品。良い意味でも、悪い意味でも。
彼女の作品を形容するとき、自分でも嫌になるぐらい繰り返し、この形容を使っている。「読んでいるときはこのうえなく面白い。しかしオチがよくない」と。『きのうの世界』でもまたこの形容を使う。面白い、しかしオチは首を傾げるようなものだ。新聞の連載で、よくこれができたものだとさえ思う。
三つの塔と水路の町。気品と情緒あふれるこの地方の小さな町に、幾つかの死体が転がる。そしてその死体にまつわる、人々の思いを中心にお話が進んでいく……のだが、ミステリではない。ミステリ的な、いわゆる合理的な解決を期待していると、ラストで顎が外れる。
有能な会社員だった一人の男が失踪した。一年ののち、彼の亡骸がこの町で発見された。なぜ彼が消えたのか、そして死んだのか、誰も知らない。同僚は言う。彼が人間にあるまじきほどの記憶力の持ち主だったと。その能力が彼の失踪と死を呼んだのか。
どうも唐突な印象を与えるクライマックスから、腰から力が抜けていきそうなラストを除いては、面白い。水の匂いが紙面から立ち昇ってきそうな、古い町の迫力が素晴らしい。各登場人物より迫力がある。この辺りはさすがだった。
恩田陸らしく無茶な結末を持つ小説。起承転結で言えば起承まで傑作、残りは怪作。