FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

親指のうずき/アガサ・クリスティー

 文庫本を実際に手に取るまで、ミス・マープルものの『動く指』と内容を混同していた。この『親指のうずき』は、探偵でもありスパイでもあるトミー&タペンスのシリーズだ。今回は誰も依頼者がいないにも関わらず、勝手に探偵として活躍している。
 子供達を立派に独立させ、熟年夫婦二人の生活を楽しんでいるトミーとタペンスのべレズフォード夫妻。ある日、親戚のため訪ねた高級老人ホームで、夫婦は奇妙な老婦人と出会う。運河のたもとにある、どことなく淋しげな一軒家を描いた絵画。この絵の持ち主だという老婦人は、ぞっとするようなことを口にした。暖炉の奥に子供が埋まっている、と。周囲の人間は、それを老いた女性の妄想だと片付けていた。だがその老婦人は親戚だと名乗る女性によって連れ去られ、まったく連絡が取れなくなる。証拠は一つもない、だが親戚というのは本当だろうか。
 胸騒ぎ(この作品風に言えば、「親指のうずき」)を感じ、夫妻、特にタペンスは探偵精神を発揮する。モデルになった家を突き止める。その家のある村では、かつて連続少女殺人事件が発生したという。
 謎めいた風景画に、謎めいた絵。実にいい素材だ。
 アガサ・クリスティーの晩年の作品らしく、なにが謎なのか分からないもどかしさとが、かえっていい味を出している。「過去の罪は長い影をひく」も健在だ。張り切りすぎのタペンスがクライマックスで対峙する犯人も恐ろしい。
 例によって例のごとく、タイトルはシェイクスピアより引用されている。『マクベス』だが、「親指のうずき」というこの台詞、一体どこに出てきただろうか。不勉強のためさっぱり忘れていた。


動く指 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

動く指 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

↑こちらはミス・マープルもの