FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

灰色の女/A・M・ウィリアムスン

灰色の女 (論創海外ミステリ)

灰色の女 (論創海外ミステリ)

 黒岩涙香が『幽霊塔』として翻案し、江戸川乱歩がそれをベースとして同タイトルの作品『幽霊塔』として仕上げたものの原作である。
 アモリー家に伝わる由緒ある屋敷ローン・アベイ館。前内務大臣である叔父ウィルフレッド・アモリー卿のため下見に来た青年、テレンス・ダークモアは時計塔にて灰の服をまとった美女コンエスロ・ホープと出会う。コンエスロの美と神秘性に魅了されたテレンスは、それまで婚約していた従妹ポーラ・ウィンが急に不細工で、俗物で、趣味が悪くて、つまりは「僕はなぜ彼女と婚約していたのでしょう」状態に陥り、一挙にコンエスロに心と行動力を捧げることとなる。幾度となく窮地に立たされるコンエスロを救うべく、テレンスは戦いを開始する。やがて殺人事件が発生する。それはテレンスにとって冒険の始まりだった。
 江戸川乱歩『幽霊塔』は、学生時代に読んだことがあるはずだが、実は内容をよく覚えていない。訳者たる中島賢二のあとがきや、小森健太朗の解説あるよう、ウィルキー・コリンズの傑作『白衣の女』を意識した内容で、またレ・ファニュも連想させられる内容だ。ただこの二人のゴシックロマンの大家に比べれば格の部分でいささか劣るところがある。……大変な美女に出会ってのぼせているのは分かるとしても、それまでも婚約者を(口に出さないとはいえ)それほど罵る必要はあるのか?というのが最大の疑問点である。
 幽閉、脱出、ある犯罪の謎解き、宝探し、過去に惨劇が起きた壮麗な屋敷、謎めいた美しい異性との恋愛、意外な血縁関係の判明とゴシックロマンの各要素をふんだんに盛り込んだ作品である。面白くないとは言わないが、主人公の言動には前記の点で大減点。
 作者アリス・ミュリエル・ウィリアムスンは生前はベストセラー作家だったが、死後は忘れられていたらしい。彼女の初期の作品にはこの『灰色の女』のごときミステリジャンルに属する作品が多いらしいで、もっと翻訳されてほしい。願わくば、もっとまともな性格の主人公を。