FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

薪の結婚/ジョナサン・キャロル

薪の結婚 (創元推理文庫)

薪の結婚 (創元推理文庫)

 当方はジョナサン・キャロルの良き読者ではない。彼のダーク・ファンタジーの各著作よりも純ミステリ『蜂の巣にキス』が一番面白かったという人間だからだ。
 だがこの『薪の結婚』は、彼のダーク・ファンタジーの中ではもっとも受け入れやすかった。ヒロインの謎めいた手記や、館に現れる亡霊、人形や腹話術師といったゴシックロマン風の小道具を使っているせいかもしれない。また『薪の結婚』というタイトルもひどく詩的で、禍々しい美しさが感じられ、心そそられた。
 ミランダは十八歳の高校生。知的で堅物だったが、恋人はジェームズという不良少年だった。
 ミランダは三十三歳。稀覯本を扱う古書業者で、美術品バイヤーであるヒューが最愛の男だった。だが彼には魅力的な妻シャーロッテがいた。ある日、ミランダは仕事を通じてフランシスという老女と知り合う。フランシスは若かりし頃、数々の著名な芸術家の愛人となり、艶名を馳せた女性だった。
 ミランダは老女。生命がつきる前に書き記しておかねばならないことがあり、覚悟を決めていた。十八歳のときの恋人だったジェームズについて。三十三歳のとき愛していたヒューについて。そして老女フランシスについて。フランシスの恋人の一人に、天才的腹話術師シュムダがいた。シュムダは濃い影をフランシスの生涯に落としていた。だが彼の力は、ミランダにも及んだ。過去のミランダにも、現在のミランダにも。
 幽霊小説でもあり、あるモンスターを風変わりに料理した小説でもあり、意外な結末を持つ一種のミステリでもある。
 ミステリ『蜂の巣にキス』と同じ町が舞台となっており、クレインズ・ヴューの警察署長として引き続きフラニー・マケイブが登場する。これまで脇を固めてきた形だが、訳者によるあとがきによると彼が主役となる小説もあるとのこと。職業が職業だから仕方ないのかもしれないが、人が起こしたものか、人ならぬものが起こしたものかはさておき、つくづく事件に巻き込まれやすい御仁である。