FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

田舎の刑事の趣味とお仕事/滝田務雄

田舎の刑事の趣味とお仕事 (ミステリ・フロンティア)

田舎の刑事の趣味とお仕事 (ミステリ・フロンティア)

 「脱力系ミステリ」なるあらすじの形容と、「ワサビ泥棒」や「トーテムポール損壊事件」なるやはりあらすじの紹介から、ミステリよりもユーモアの勝ったユーモア・ミステリだろうと勝手に判断し、スルーしていたのだが、大間違いだった。
 確かに出てくるキャラクターは能天気、起こる事件もぱっと見は能天気、しかしその底にはしっかりと本格ミステリのスピリットが宿っている。
 黒川鈴木。この珍妙なフルネームを持つ彼は、切れ者の刑事だった。妻や部下に対して敬語を使うほど物腰丁寧。だが勤務している地は田舎、よって大した事件は起こらない……はずだった。
 しかし黒川鈴木はワサビ泥棒の大胆なトリックを看破し、樹木に残された痕跡からある犯罪を未然に防ぎ、コンビエンスストア篭城事件では人質に取られつつ意外な犯人を指摘する。八面六臂の活躍を見せる彼だが、もっともおぞましい、身近な敵に気付いてない。
 奥さん!奥さん!!
 黒川鈴木巡査部長、部下でアホの白石に苛々している場合じゃないよ。あんたの無名の奥さん、出てくる人間のうち(犯人連含む)で誰よりも頭が切れて邪悪だから。あんた自身刑事なのに、保険金のために毒を盛られて……ってことになりかねないから。
 まあ黒川鈴木そのひとも、女子大生のふりをしてオンラインゲームにのめり込み、彼を可愛い女の子と信じて疑わない白石とパーティーを組んでしまうほどなので、案外似合いの夫婦なのかもしれない。
 初めて読んだが、なんとなく東川篤哉を連想させられる作家だ。ユーモアがもっさりしている点と、推理の切れ味がスマートな点が。
 本格ミステリ好きにお奨め。