FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

アサイラム 監禁病棟と顔のない患者たち/ブラッド・アンダーソン監

 エドガー・アラン・ポーの『タール博士とフェザー教授の療法』という小説が原作だが読んだことがない。十九世紀末の、孤立した城館のごとき精神病院を舞台にしたサイコスリラーで、終始緊張感がとぎれることのない作品。
 大きな期待をせずに見たのだが、ミステリ映画という意味でも、ゴシック映画という意味でもとても満足させられた。
 精神的な病への理解も治療法も確立していない十九世紀末イギリス、冬。医学生エドワードは雪に閉ざされた精神病院を訪れた。貴族階級の患者ばかりが集められているというこの壮麗な建築物には、なにがしの違和感が漂っていた。
 院内を回っているとき、エドワードは狭い牢獄に閉じ込められた人々を発見し驚愕する。彼らは、自分たちが本物の医者や看護師など医療従事者であり、現在医療スタッフとしてふるまっているのはこの病院を乗っ取った患者なのだと。院長としてふるまっている男は狂気にかられた元軍医だと。
 誰を信じたらいいか分からない不安、エドワードと美しい人妻である患者との恋、冬の間に尽きていく燃料と食糧などお話を盛り上げるネタには事欠かない。
 話がどこへ転がっていくのかが分からない焦燥感に満ちた、ゴシックサスペンス映画の佳作。