スタフ王の野蛮な狩り/ワレーリー・ルビンチク監督
かつてミステリ、ホラーに分類されるものの中で見てみたい映画が三作品あった。ジョン・ハンコック監督『呪われたジェシカ』、ワレーリー・ルビンチク監督『スタフ王の野蛮な狩り』、ジョセフ・ステファノ監督『シェラ・デ・コブレの幽霊』。
このうち『呪われたジェシカ』はDVDが無事販売され、見ることができた。そしてワレーリー・ルビンチク監督『スタフ王の野蛮な狩り』は名古屋の映画館シネマスコーレ(http://www.cinemaskhole.co.jp/cinema/html/)で、<ロシアン・カルト2018>の中の一作品として上映されたため、見ることができた。
すごく好みのゴシックミステリ映画だった。時代物という設定もあろうが、私がゴシック映画に望むもの(館、忌まわしい伝説、ドールハウス、秘密の部屋、殺人事件、肖像画、謎めいた手記などなど)をこれでもか、これでもかと言わんばかりに詰め込んでいる。ミステリとして謎とその解明もあり、そちらも楽しい。
1899年、ベロルシアのポーレシエ村。あちらこちらに小さな沼があるばかりの荒涼たるこの地には、三十人の配下の騎士とともに謀殺されたスタフ王の呪いの伝説が息づいていた。民俗学の研究をしているペテルスブルグの大学生アンドレイ・ベロレツキーは雨宿りのためにある館を訪れ、美貌の女主人ナジェージタと出会う。ナジェージタはスタフ王を謀殺した貴族の最後の末裔で、スタフ王の呪いによって命を落とすと苦しんでいた。
やがて館では殺人事件が起き、さらに近隣にスタフ王と騎士の亡霊が現われ、その土地で暮らす人間を慄然とさせる。
謎とその解明は、ミステリ愛好家なら察しがつくかもしれないが、見せ方がとても美しく、特に「スタフ王の騎士」の正体が明かされたとき、そしてその後の場面には恐怖美と言いたくなるような凄惨な魅力、迫力があった。
西欧のそれとはまた味わいが異なる魅力に満ちた、素敵なゴシック映画。
↑雰囲気のある秀作ホラー映画
そしてミランダを殺す/ピーター・スワンソン
『時計仕掛けの恋人』があまり琴線に触れなかったので、期待していなかったのだが、とても良かった。まだ三月だが、間違いなく2018年度ベストミステリの一冊である。三部構成の犯罪小説で、各所で読者を驚かせる爆弾が仕掛けられており、球技のボールにされたかのように読者はあっちこっちに振り回される。
空港のバーで見知らぬ美女リリーと知り合ったテッド。妻ミランダの不貞を知っているテッドがミランダの殺害計画を口走ると、リリーは彼の殺意を肯定し、ミランダ殺害計画への協力を申し出てくれた。
そしてテッドはミランダ殺害計画を進めるが、読むものの脳裏にはクエスチョンマークが浮かぶ。リリーの正体とその真意に対するクエスチョンマークだ。テッドによる殺人計画と交互に、リリーの生涯が語られていく。
『そしてミランダを殺す』という邦題もいい(原題はThe Kind Worth Killing、「殺されて当然の者たち」)。『そしてミランダを殺す』というタイトルには、ミランダを殺す以前の段階になにかあったように感じられるし、そして実際に読むと思わずにやりとさせられる。
意外性と読ませる力を兼ね備えた力強い傑作。