FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

きみはぼくの母が好きになるだろう/ネイオミ・A・ヒンツェ

 

 奇妙な世界さん

kimyo.blog50.fc2.com

twitterで紹介をしていらしたゴシックサスペンス。ハヤカワ・ノヴェルズから1971年に出版された作品。青木久恵が翻訳しており、訳者あとがきによってアメリカにおけるゴシックロマンの人気に触れている。この分野の特徴は書き手も読み手も女性も大部分であること、そして男性が作者である場合も女性名義を使うこと(この作品の作者は女性)。なんだか現在のロマンス小説に近い感じを受ける。
 『きみはぼくの母が好きになるだろう』は、夫に先立たれた気弱な若妻フランシスカオハイオ州にある夫の実家である大邸宅を訪ね、妊娠中である彼女本人の体調と洪水という天災によって、屋敷に軟禁されることとなる物語である。
 タイトルの『きみはぼくの母が好きになるだろう』はフランシスカが生前の夫に言われた台詞なのだが、フランシスカには母が不気味な存在にしか見えず、母はフランシスカを好いているようには見えず、また問題のある夫の妹もいた。我が子のためにもフランシスカは生き延びようと奮闘する。古めかしいゴシックサスペンスの印象を受けるが、犯罪を構成する要素には現代的なものが仕込まれている。
 ロマンス要素もあり、フランシスカの成長物語でもある。なかなか楽しい一冊。

 

お嬢さん/パク・チャヌク監督(ネタバレあり)

お嬢さん(字幕版)

 


パク・チャヌク監督『お嬢さん』のネタバレがあります。まだ見ていない方はご注意ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リンゴ・シエ監督『屍憶 −SHIOKU−』を見たとき、東洋である台湾を舞台にしたゴシックホラーも「いいな」と思った。パク・チャヌク監督『お嬢さん』を見たとき、朝鮮を舞台にしたゴシックミステリも「いい!」と思った。舞台は日本統治時代の朝鮮である。


 これは侍女に扮した詐欺師の少女と資産家の令嬢との騙し合い(と共闘)を描いた、パク・チャヌク監督の畢生の大作たるミステリ映画。詐欺師と令嬢、この二人の女性同士恋愛映画、官能映画という側面も強い。後半の奇怪で倒錯した「朗読会」も含め、始終耽美的な雰囲気が漂っている。
 去年この作品を鑑賞していたら、自分の中でこの映画とオリオル・パウロ監督『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』が首位を争っていただろう。

 

 

hachibinoneko.hatenablog.com

 


 サラ・ウォーターズの時代ミステリ『荊の城』を原作としており、設定やストーリー展開が変わっているのだが、そのアレンジがとてもうまい。浮世絵の使い方もうまい。
終盤での男性同士の戦いとその決着もついニヤリ。145分という時間がまったく気にならない。頽廃と清冽が溶け合った正真正銘の傑作である。

 

荊[いばら]の城 上 (創元推理文庫)

荊[いばら]の城 下 (創元推理文庫)

屍憶 -SHIOKU- [DVD]

 

何度目かのブーム

ライダーは闇に消えた (皆川博子コレクション)

 

 人生で何度目かの皆川博子ブームが来て、日下三蔵が編集した出版芸術社皆川博子コレクション』ばっかり読んでる。刊行された順番ではなく、『皆川博子コレクション10 みだれ絵双紙 金瓶梅』から読み始め、次は『皆川博子コレクション1 ライダーは闇に消えた』を読む予定。

 

皆川博子コレクション10みだれ絵双紙 金瓶梅

 

創元推理倶楽部二月例会

雪と毒杯 (創元推理文庫)

 

 創元推理倶楽部二月例会の幹事は私、八尾の猫。課題本はケイト・ミルフォード 『雪の夜は小さなホテルで謎解きを』とどちらにしようか迷ったけれど、エリス・ピーターズ『雪と毒杯』にする。これから読むぞ。

 

雪の夜は小さなホテルで謎解きを (創元推理文庫)

みだれ絵双紙 金瓶梅/皆川博子

皆川博子コレクション10みだれ絵双紙 金瓶梅

 

 出版芸術社から出版された、日下三蔵編『皆川博子コレクション10 みだれ絵双紙 金瓶梅』に収録されているものを読んだ。生まれて初めて読んだ皆川博子の『金瓶梅』で、とても良かった。彼女の作品としては珍しく、肉の快楽の描写が多く、黒い艶笑譚の色合いが濃い。全編を彩る岡田嘉夫のイラストレーションが凄艶だ。
 中国は宋時代、美しい子供が母から纏足を強いられる場面から幕をあげる。好色な富豪の西門慶と彼の複数の妻たちの生活を中心とした悪と豪奢と頽廃に満ちた物語で、そこに木蘭や武松、燕青といった盗賊や無頼の徒たちの活劇が絡む。
 ところで私の中国文学『金瓶梅』に対する知識は、ほとんどすべてが山田風太郎『妖異金瓶梅』に依っている。今更言うでもないが、山田風太郎『妖異金瓶梅』はミステリ史上の大傑作で、あの潘金蓮、あの応伯爵は生きている限り忘れることができそうにない。
 そしてもちろん皆川博子『みだれ絵双紙 金瓶梅』の潘金蓮と応伯爵の姿は忘れられそうにない。また潘金蓮と応伯爵の末路には滑稽味も恐怖もあるが、美童の琴童が作中で受ける虐待と屈辱、颯爽たる美男、燕青の活躍とあるヘマから陥ってしまった無残極まりない地獄には目を覆いたくなる。
 かぐわしい文章に妖艶なイラストレーション、皆川博子の作品にしっかりと仕込まれた毒という芳醇な酒に酔ったような気持ちとなる大傑作。

 

妖異金瓶梅  山田風太郎ベストコレクション (角川文庫)

↑ミステリ史上、屈指の傑作。そして怪作。