お嬢さん/パク・チャヌク監督(ネタバレあり)
パク・チャヌク監督『お嬢さん』のネタバレがあります。まだ見ていない方はご注意ください。
リンゴ・シエ監督『屍憶 −SHIOKU−』を見たとき、東洋である台湾を舞台にしたゴシックホラーも「いいな」と思った。パク・チャヌク監督『お嬢さん』を見たとき、朝鮮を舞台にしたゴシックミステリも「いい!」と思った。舞台は日本統治時代の朝鮮である。
これは侍女に扮した詐欺師の少女と資産家の令嬢との騙し合い(と共闘)を描いた、パク・チャヌク監督の畢生の大作たるミステリ映画。詐欺師と令嬢、この二人の女性同士恋愛映画、官能映画という側面も強い。後半の奇怪で倒錯した「朗読会」も含め、始終耽美的な雰囲気が漂っている。
去年この作品を鑑賞していたら、自分の中でこの映画とオリオル・パウロ監督『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』が首位を争っていただろう。
サラ・ウォーターズの時代ミステリ『荊の城』を原作としており、設定やストーリー展開が変わっているのだが、そのアレンジがとてもうまい。浮世絵の使い方もうまい。
終盤での男性同士の戦いとその決着もついニヤリ。145分という時間がまったく気にならない。頽廃と清冽が溶け合った正真正銘の傑作である。
みだれ絵双紙 金瓶梅/皆川博子
出版芸術社から出版された、日下三蔵編『皆川博子コレクション10 みだれ絵双紙 金瓶梅』に収録されているものを読んだ。生まれて初めて読んだ皆川博子の『金瓶梅』で、とても良かった。彼女の作品としては珍しく、肉の快楽の描写が多く、黒い艶笑譚の色合いが濃い。全編を彩る岡田嘉夫のイラストレーションが凄艶だ。
中国は宋時代、美しい子供が母から纏足を強いられる場面から幕をあげる。好色な富豪の西門慶と彼の複数の妻たちの生活を中心とした悪と豪奢と頽廃に満ちた物語で、そこに木蘭や武松、燕青といった盗賊や無頼の徒たちの活劇が絡む。
ところで私の中国文学『金瓶梅』に対する知識は、ほとんどすべてが山田風太郎『妖異金瓶梅』に依っている。今更言うでもないが、山田風太郎『妖異金瓶梅』はミステリ史上の大傑作で、あの潘金蓮、あの応伯爵は生きている限り忘れることができそうにない。
そしてもちろん皆川博子『みだれ絵双紙 金瓶梅』の潘金蓮と応伯爵の姿は忘れられそうにない。また潘金蓮と応伯爵の末路には滑稽味も恐怖もあるが、美童の琴童が作中で受ける虐待と屈辱、颯爽たる美男、燕青の活躍とあるヘマから陥ってしまった無残極まりない地獄には目を覆いたくなる。
かぐわしい文章に妖艶なイラストレーション、皆川博子の作品にしっかりと仕込まれた毒という芳醇な酒に酔ったような気持ちとなる大傑作。
↑ミステリ史上、屈指の傑作。そして怪作。
謹賀新年
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
一年を振り返ってみると、昨年は国内ミステリでは今村昌弘『屍人荘の殺人』、ミステリ映画ではオリオル・パウロ監督『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』、ホラー映画ではアンドレ・ウーヴレダル監督『ジェーン・ドウの解剖』がそれぞれ群を抜いて面白かったです。
ミステリでは、前記の今村昌弘『屍人荘の殺人』、陳浩基『13・67』、ジェイン・ハーパー『渇きと偽り』、ジム・ケリー『凍った夏』、E.O. キロヴィッツ『鏡の迷宮』あたりがベストでしょうか。またミステリ映画ではなくミステリドラマですが、『アメリカン・ゴシック 偽りの一族』も忘れがたい。
今年も素敵なミステリ、ホラー、ゴシック、耽美作品に出会えますように。