インビジブル・ゲスト 悪魔の証明/オリオル・パウロ監督
スペインのミステリ映画である。
密室殺人を扱った映画という以外の情報を何一つ入れずに見たが、正解だった。
すごく面白い!
同じ監督の『ロスト・ボディ』
http://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/20140121
も良かったが、この作品はさらに完成度が高い。全編に漂う緊迫感、二転三転するストーリー、そして「最後の一撃」。アガサ・クリスティの稚気と才気とを同時に連想させる芳醇なミステリ映画だ。 耳に入れたときは何気なく聞き流した情報にあとから叩きのめされる快感はない。
今年はアメリカのテイト・テイラー監督『ガール・オン・ザ・トレイン』といい、
http://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/20170522
といい、様々な形で優れた映画に触れることができ、とても嬉しい。
さてこの『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』のストーリーである。辣腕の実業家が密室で不倫相手を殺害した容疑をかけられる。実業家が待つホテルに一人の女性が尋ねて来る。法廷での対策のため雇ったのだ。実業家は彼女に打ち明ける。実は実業家と不倫相手は、過去に許されざる犯罪を引き起こしていた。それが現在の密室殺人事件にもつながっているのだと。
二人の語りの中で、意外な真実が次々と明らかになっていく。
今年見たミステリ映画の中での最高傑作。
嬉しいもの、嬉しくないもの
一時的に入院していた親が戻り、日常が戻ってきた。嬉しい。
強風の日が続き、花粉症の症状も戻ってきた。さっぱり嬉しくない。
嘘つきポールの夏休み/サビーン・ダラント
うん、正統派のイヤミスだ。
クズな主人公が一気に地獄に陥るわけではなく、少しずつ少しずつ追い詰められていく様子を見て取ることができる。
一言で言えば好色でエゴイストの主人公がバッドエンドを迎えるミステリだが、それでも一抹の清爽感があるのは、最後の最後で主人公が自分や自分の行いの非を認めて悔い、そして許すことのできないあることのために自己を陥れた人間と戦う気概を見せ、作家としても再生するからだ。むろん物語が終わったのちには主人公、「嘘つきポール」が完全に敗北して破滅するかもしれないが、このラストにポールがいたった心境が小説全体の重苦しさをやや和らげている。
売れない小説家の中年男性ポール。容姿と口先の魅力だけで生きてきた彼だが、とうとう運がつき、住居にも金銭的にも行き詰まることとなった。だがポールは同級生の弁護士アンドルーを通して、やはり弁護士アリスと出会う。アリスは裕福な弁護士で、社会的な弱者の味方だった。未亡人のアリスに取り入るため、ギリシャの別荘を訪れる彼だったが、その地で起こった性犯罪、そしてアリスがとても気にかけている、やはりこの地で起きた十年前の少女失踪事件が、奇妙な形でポールに覆いかぶさっていく(酒に酩酊してほとんど覚えていないが、ポールもその事件が起こった当時、同じ土地にいたのだ)。
バカンスのため訪れた美しい南欧の島々が、ポールにとっての悪夢の迷宮に変わってしまう様相に読み応えあり。これを書くと察しがついてしまう人もあるかもしれないが、「事件の謎と真相」にも意外性があった。
映画になったところを見てみたい作品でもある。佳作。