FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

色々あった八月

 まだ終わってないですが、8月は色んなことがありました。数日前の真夜中、いきなり親が苦しみだし、救急車で一緒に病院へ。そのまま親は入院となり、検査を受けることに。結局痛みはあるものの、命に別状はない症状だと分かり、昨日無事に退院いたしました。もう一度入院しなくてはならないことは決まっているのですが、とりあえず安堵。耽美な生活に戻ることができそうです。

草祭/恒川光太郎

草祭 (新潮文庫)

 

 いつかは読みたい作家の一人だった。「なにか手頃なホラー作品を」と例のごとく考えて手に取ったのだが、手頃などという予想をはるかに上回る傑作短編集だった。土の匂いや木の匂いが漂うがごとくであり、よどんだ水や黄昏刻の空気の感じまでが描き出されており、土俗の風格が漂い、同時に人の世の汚濁もある。

「けものはら」、「屋根猩々」、「くさのゆめがたり」、「天化の宿」、「朝の朧町」の五編が収録されていて、いずれも美奥という「闇の多い」土地を舞台にした、日常と非日常が隣り合わせとなったお話である。現在を舞台にした物語もあれば、時代が昔のものがある。共通する登場人物も出て来るが、主役はやはり美奥という土地そのものなのだろう。

 残酷で美しい幻想物語。自分がそののちどうなってしまうか分からなくて恐ろしいが、「天化の宿」に出てくる遊戯をしてみたいものである、傑作。

 

完璧な家/B・A・パリス

完璧な家 (ハーパーBOOKS)

 

 サイコサスペンスにして、サンドリーヌ・コレット『ささやかな手記』やシェヴィー・スティーヴンス『扉は今も閉ざされて』のような監禁状態に置かれた人間の戦いを描いたミステリでもある。

 豪邸で暮らす、完璧に幸せな夫婦……しかしそれは虚像であり、ハンサムで大金持ちである夫は、支配欲が強いうえ、人の恐怖を精神上の大好物とする異常者だった。過去に実際に人を手にかけたことがある。

 それと知らずに結婚し、障害者の妹を人質にとられた妻は、なんとかして妹とともにこの地獄の生活から脱出しようとする。ただ妻を罰するためにだけ仕掛けられた夫の罠を潜り抜けながら。

 シンプルでありながら面白いサスペンスだった。しかしあれ、と思ったのは結婚した途端、嗜虐癖を持つ夫が自分の過去の罪業や本当の性癖についてぺらぺらとすべて妻に話してしまうこと。これを聞かされた妻が、もっと衝動的な行動に出たらどうするんだと思ってしまった。

 動物好きにはつらい場面もあるが後味も悪くない。ヒロインの活躍ににやりとできる秀作。

 

ささやかな手記 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

扉は今も閉ざされて (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 

ガール・オン・ザ・トレイン/テイト・テイラー監督

ガール・オン・ザ・トレイン ブルーレイ+DVDセット [Blu-ray]

 

 

 ベストセラーになった原作は読んだので内容は知っている。小説を読んだときは「普通の出来栄えのサスペンス小説だな」という感想だったが、映画はとても良かった。どちらかと言えば落ち着いた雰囲気の映画だが、緊張感がとぎれることがない。

 片方は水辺、もう片方は美しい住宅地、その間を列車が走っていく風景がとてもきれいで、見るものの心を惹き付ける。

 ヒロインの一人、レイチェルはこの列車から一軒の住宅地を見、そこで仲良く暮らす夫婦を見、羨望していた。レイチェル自身はアルコール中毒で、結婚生活が破綻した身だった。レイチェルが羨んでいる夫婦の二軒隣には、かつてのレイチェルが暮らしていた家があり、夫は新しい妻アンと赤ん坊と暮らしているのだ。

 ある日、レイチェルは「理想の夫婦」の妻が他の男性と抱き合っているのを列車の窓から目撃、怒りにかられる。やがてレイチェルにとっての理想の妻「メガン」が失踪する。

 レイチェルがひたすら危うい。列車から見かけただけの夫婦に理想を(妄想を、というべきか)抱き過ぎだし、メガン失踪ののちには探偵遊戯をはじめるが、アルコール中毒ゆえ記憶に欠落がある彼女は、警察にとっても、事件関係者にとっても、そして観客にとっても「信頼できない語り手」なのである。

 このレイチェルがある事実を知って以来(やっぱり電車の中でのことだ)、ストーリーが急展開していく。終盤で「あなたも見ていないでもっと早く警察に連絡しろよ」という突っ込みが脳裏から離れなかった。

 傑作である。

 

ガール・オン・ザ・トレイン(上) (講談社文庫)

ガール・オン・ザ・トレイン(下) (講談社文庫)

トゥルースorデア~密室デスゲーム~/ロバート・ヒース監督

トゥルース or デア 密室デスゲーム [DVD]

 

 これを書くことは若干のネタバレになってしまうが、しかし書かなければ魅力も伝わらないだろうから書いてしまう。きびきびとひねりの聞いた筋の運びがうまく、そしてラストにはちょっと意外な結末が待っている。

 設定はありふれたものである。麻薬を用いた若者たちの享楽的なパーティーで、一人の若者が失恋し、またトラブルに巻き込まれた。

 やがていくらか時間が流れ、トラブルに巻き込まれた若者から、パーティーの参加者に誕生日パーティーの招待状が届いた。若者の実家は壮麗な屋敷。ここでゴシックホラーが始まるの、と期待していたが、あっという間にみすぼらしい小屋に舞台は移る(ちょっと残念)。そこで招待客たちは若者の兄を名乗る男に拘束され、意外な事実を聞かされた。

 パーティーの際のトラブルと、そして現在拘束されているものたちの誰かが出した心ない葉書のせいで、弟は自殺したというのだ。怒り狂っている兄は弟の復讐のため、招待客に死をもたらす残忍なゲームを強制する。

 若者の死は誰にとっても招待客の自殺は意外だった。招待客にとっても(そしておそらく観客にとっても)、失恋は確かにショックではあろうし、トラブルはあったもののささいなもののように感じられたから。

 やがて死んだ若者の兄の本性が透けて見えて来る。兄弟の実家はその土地では大変な名家、しかも兄弟の父親は軍人めいた教育を息子らに施していた。つまり兄は、弟の自殺を心から悲しみ復讐を誓ったわけではなく、また弟の心情を真に慮ったわけではなく、家の名誉が傷つけられた、面子が汚された怒りから、不埒な招待客に残酷なゲームで復讐をしようというのだ。

 彼らは必死に脱出、反撃を試みるが……。

 以下ネタバレ。

 (通常のホラー映画だったら必ず生き延びるであろう登場人物は死に、また早い段階で死ぬであろう登場人物が生き残る。悪女的気質で性的に積極的な女性はたいてい早めに殺されるが、この話では最後まで生き延び、しかも「真相」まで突き止める。若者が行った自殺、その直接の原因は、ある秘密を兄に知られることを恐れてのことだった。兄はその事実は知ってはいるが、弟の自殺の責任が自分にあると考えたくないため他人に押し付けた。悪女的ヒロインは自分とそして友人たちの仇をうち、地獄の小屋を脱出する

 ホラー映画ファンにちょっとお勧めのB級ホラー映画。